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東京地方裁判所 平成9年(ワ)20412号 判決 1999年7月14日

原告

翁信輝

被告

織田憲明

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金六二二万三五四三円及びこれに対する平成七年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、三分の一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分について、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金二〇五二万一七五六円及びこれに対する平成七年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機の設置された市街地の交差点で、直進車と右折車が衝突し、直進車の運転者が負傷した交通事故(対面信号の色や、右折者がウィンカーを出していたか否かなどについて、争いがある。)について、その運転者が、いまだ治療を継続していることから、平成一一年一月一六日までの治療に限定して、損害賠償の一部の支払を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は争いがない。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 平成七年一二月七日午前八時四五分ころ(甲一)

(二) 事故現場 東京都杉並区高円寺南四丁目七番先所在の交差点

(三) 事故車両 被告パーク電工株式会社(以下「被告会社」という。)が保有し、被告織田憲明(以下「被告織田」という。)が運転していた普通乗用自動車(練馬三四せ三五一五、以下「被告車両」という。)と、原告が運転していた普通乗用自動車(練馬五四め四四七四、以下「原告車両」という。)

(四) 事故態様 被告車両と原告車両が本件交差点内で衝突した。

2  損害のてん補

被告らは、原告に対し、本件事故に基づく損害賠償として五三五万二五〇二円(健保求償分を含まない)を支払った(乙七)。

二  争点

1  責任原因・過失相殺

(一) 原告の主張

被告織田は、原告車両の対向車線上の端に(原告から向かって右端)、原告に対向する形で被告車両を駐車しており、原告車両が本件交差点に進入しようとしたところ、被告織田が、携帯電話をかけながら、駐車していた場所から、急激に発進した。そして、被告織田は、ウインカーも出さずに、かつ、前方を無視して急に右折しようとして、直進してきた原告車両と衝突した。

したがって、本件事故は、一〇〇パーセント被告織田の過失に基づく事故である。

(二) 被告らの反論

被告織田は、走行してきて本件交差点を右折しようとしたのであり、駐車していたのではない。被告車両が、本件交差点の手前で減速してセンターラインに寄り、時速約五キロメートルで本件交差点の手前に存在する横断歩道の五、六メートル手前に達したとき、対面信号が青色から黄色に変わった。被告織田は、その際、対向車線を確認したところ、本件交差点の横断歩道の向こう側二〇メートルか三〇メートルほどのところに原告車両を認識したので、原告車両は当然停止するものと判断し、本件交差点手前の横断歩道を越えた地点で右折を開始したところ、原告車両が直進してきたので、被告織田はブレーキをかけて被告車両を停車させた。そこへ、原告車両が衝突してきたのであるから、原告にも、前方不注視の重大な過失がある。

2  本件事故と相当因果関係のある治療期間

(一) 原告の主張

原告は、本件事故後、頸椎捻挫、腰椎捻挫、左大腿部打撲の診断を受け、手足のしびれ、ひどい頭痛などで入通院加療を受けた。現在においても、症状は固定しておらず、治療中である。

したがって、平成一一年一月一六日時点までの治療を前提に、一部の損害を請求するものであり、ここまでの治療は、本件事故と相当因果関係がある。

(二) 被告らの反論

原告の症状は、平成八年一二月末日の時点で固定しているから、本件事故と相当因果関係のある治療期間は、この時点までである。

3  損害額

第三争点に対する判断

一  責任原因・過失相殺(争点1)

1  前提となる事実及び証拠(甲三[一部]、九、二四[一部]、二五、四三、乙六、原告本人[一部]、被告織田本人[一部])によれば、次の事実が認められる。

(一) 事故現場は、青梅街道方面(南方向)から高円寺駅方面(北方向)へ南北に走る道路(以下「南北道路」という。)と、環七通り方面(東方向)から高円寺南三丁目方面(西方向)に走る道路(以下「東西道路」という。)が交差する信号機の設置された市街地の交差点(以下「本件交差点」という。)である。南北道路の幅員は一一メートル、東西道路の幅員は九メートルであり、いずれもセンターラインが引かれて片側一車線である。交差点の出入口には、いずれも横断歩道が設置され、横断歩道の手前三メートルの位置に停止線が引かれている。なお、最高速度は、毎時四〇キロメートルに制限されていた。

(二) 原告は、平成七年一二月一七日午前八時四五分ころ、太極拳の指導のため、東京都杉並区高円寺南四丁目に所在する自宅から、埼玉県東松山市に向かうため、原告車両を運転し、南北道路を北に向かって本件交差点に差し掛かった。

他方、被告織田は、東京都練馬区鷺宮から、高円寺近くの仕事現場に向かうため、被告車両を運転し、制限速度を越えない程度の速度で南北道路を南に向かって本件交差点に差し掛かった。

(三) 被告織田は、本件交差点を高円寺三丁目方面へ右折しようとしたところ、本件交差点の数メートル手前で、対面信号が青色から黄色に変わったため、早回りで右折しようと考え、右折ウィンカーを出すことなく、本件交差点手前の停止線付近から右側車輪をセンターラインからはみ出して走行し始めた。被告織田は、その際、青梅街道方面から、本件交差点に向かって対向車線を直進してくる原告車両を認識したが、対面信号が黄色に変わったから停止するであろうと安易に考え、右折する方向の横断歩道の通行状況を確認してそのまま右折し始めた。他方、原告は、対面信号が黄色に変わったことで交差道路が気になったためか、前方に十分注意を払うことなく、漫然と本件交差点に進入した。

被告織田は、再び対向車線に目を戻した際、原告車両がそのまま本件交差点に進入してきたのを発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、本件交差点内の北側横断歩道付近において、原告車両の右前角部と被告車両の前部が衝突した。

以上のとおり認めることができ、甲三、二四、原告本人及び被告織田本人の供述中右認定に反する部分は、前掲各証拠と対比してたやすく採用できない。

2  この認定事実によれば、被告織田は、交差点を右折するに際しては、信号を遵守し、右折合図をした上で、対向車両の走行状況に配慮しながら、交差点の中心の直近の内側を走行する注意義務があった。ところが、被告織田は、これを怠り、対面信号が黄色に変わった上、原告車両が対向車線を走行して本件交差点の少し手前まで差し掛かっていたのにもかかわらず、交差点に進入する直前から、右折合図をすることなく、かつ、早回りして右折態勢に入った上、右折方向に気を取られて、対向してくる原告車両に十分注意を払うことなく漫然と右折進行し、本件事故を発生させた過失がある。

したがって、被告織田及び被告会社は、連帯して、本件事故に基づき原告に生じた損害を賠償する義務がある。

他方、原告も、前方を注視するとともに、信号を遵守して走行する注意義務があるのに、これを怠り、対面信号が黄色に変わり、対向車線を走行してくる車両があるのに、漫然と交差点内に進入して被告車両が右折するのに気がつくのが遅れ、本件事故を発生させた過失がある。

この事故の態様及び過失の内容に照らすと、本件事故に寄与した被告織田と原告の過失割合は、被告織田が八五パーセント、原告が一五パーセントとするのが相当である。

二  本件事故と相当因果関係のある治療期間(争点2)

1  証拠(甲四~八、一〇、三二、三三、三六~三九、五四の6~329、五五の1~131、五七の1~6、五八の1・2、八二、二五の9~17、乙二、三の1~30、四の1~23、五、原告本人、調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告車両は、本件事故の衝撃により、右前部を中心とした凹損や、ボンネットが山型に盛り上がるなど、修理に八〇万六〇六八円を要する破損が生じ、被告車両にも、前部正面に凹損が生じ、かつ、バンパーがはずれかかるなどの破損が生じた。

(二) 原告(昭和三八年七月二八日生)は、本件事故直後、埼玉県東松山市まで行き、太極拳の指導を始めたが、身体が震えるなどした。そこで、夜になって東京都杉並区阿佐谷北に所在する医療法人財団河北総合病院で診察を受けたところ、頸椎捻挫、腰椎捻挫、左大腿打撲で二週間程度の通院加療を要する見込である旨の診断を受けた。

その後、原告は、右上肢及び左下肢のしびれ、筋力低下を訴え、同病院で頭部CT、頸椎及び腰椎のMRI検査が行われたが、異常所見はなかった。原告は、平成八年一月一〇日まで実日数にして一〇日通院治療を受けた後、頸椎捻挫(バレーリュー症状)、腰椎捻挫、右手、左膝関節挫傷の診断により、同年一月一一日、安静と牽引を目的として三週間程度の予定で同病院に入院した。

(三) 原告は、入院後、立っていると頭がくらくらするとの理由で車椅子を利用することがあり、右上肢のしびれは両上肢に拡がり、左下肢のしびれや、頸部痛、耳鳴り、腰背部痛などを訴え、リハビリテーションやレーザー治療などの理学療法による治療が施された。平成八年三月六日には、医師が、そろそろ通院の準備をするように話をしたが、原告は、入院継続の希望を伝えた。医師は、このころ、徐々にではあるが、症状は改善していると評価していた。

ところが、原告には、微熱が続くなどの症状もあり、同年三月二五日からは、抗うつ剤も投与されるようになった。また、河北総合病院では、竜王リハビリテーション病院への転院を検討し、同病院と交渉も始めた。そして、その後、症状に大きな改善はなく、同年五月一日に河北総合病院から竜王リハビリテーション病院に転院した。

(四) 竜王リハビリテーション病院に転院後も、原告は、おおむねこれまでと同じような症状を訴えており、天候によりその程度に変化があることも訴えていた。平成八年五月一一日には、頸部の伸展がほとんどできず、医師は、廃用性の症状が優位になっており、積極的に運動をする必要があるとの診断をした。

原告は、その後もリハビリ治療を受けるともに解熱鎮静消炎剤や精神安定剤、ビタミン剤などの投与を受けた。しかし、ケースワーカー、理学療法士や看護婦などは、原告には社会復帰のための意欲が低下ないし欠如しているとの指摘をしていた。また、医師は、原告の主訴には、左下肢に力が入らないというわりには咄嗟に筋萎縮があるなど辻褄の合わない訴えや詐病と思われる訴えがあったり、症状を大げさに言ってアピールする感じが見られると感じており、同年一〇月下旬には、原告が思っている回復をゴールとすると、今後長期化すると予測され、現状がゴールと考えられるとの意見を有していた。そして、原告本人にも、すっきり治ったという感じにはならず、現状で社会復帰を進めていった方がよいと説明をした。

なお、この間、腰椎の検査で腰仙移行椎の存在が認められたが、これは、先天的なもので、本件事故とは関係がない。

原告は、翌一一月に外泊して勤務先である丸成商事株式会社を訪問し、退院してもポストがないと言われたことなどから、看護婦に対し、会社での夢も無理であるとか、症状がつらいことや、保険会社が日本人である加害者に有利になるように動いているなどの話をして、頭の中が整理できないと述べたりした。そして、同年一二月一二日には、原告が、症状は全然変わらないと訴えるので、それまでの薬剤の投与は中止され、漢方薬と催眠鎮静剤の投与に切り換えられた。

平成九年二月二五日には、竜王リハビリテーション病院の院長から、原告及び原告訴訟代理人に対し、カンファレンスでこれ以上の改善は見られないであろうとの判断に至ったこと、あとは、バレーリュー症候群であることの確定をすること、それには椎骨動脈造影などの検査が重要であるので、高度医療機関でそれを受けた方がよいことなどについて説明がなされ、河北総合病院へ戻るのがよいのではないかとの話になった。

その後、原告は、河北総合病院の湯川佳宣医師に紹介状を作成してもらい、しばらく、中国の北京の病院で診察治療を受けることになり、同年五月二二日に退院した。この時点においても、主訴の内容にそれほどの変化はなかった。

(五) 原告は、竜王リハビリテーション病院を退院後、いったん本国である中国に帰国し、北京博愛病院、中国リハビリ研究センターなどで、診察治療を受けた後、平成九年九月からは、再び河北総合病院や東京慈恵会医科大学附属病院へ通院するとともに、接骨院やカイロプラクティックにも通院して治療を受けているが、平成一一年になって、原告は、以前よりも痛みがひどくなっていると感じている。

(六) バレーリュー症候群とは、頭部外傷、特に、被追突事故による過伸展損傷後に、頭痛、頭重、流涙充血、眼痛、眼振、眼のかすみ、視力低下、めまい、耳鳴、難聴、歯が浮く、はきけ、嘔吐など多彩な症状が頑固に続くことをいう。受傷直後に生じることもあれば、受傷後一週間あるいは二週間も経過してから次第に発症することもある。自律神経系の障害であることは異論がないが、病因は必ずしも明確ではない。椎骨動脈造影などが重要な検査である。

(七) 竜王リハビリテーション病院の院長である中原英幸は、原告の症状がバレーリュー症候群であるか否かは、椎骨動脈造影等の検査をしてみる必要があると考えるが、原告の経済的要因、心理的要因が大きいためにいつまでも不定愁訴を反復していると考えられ、症状は、平成八年一二月末日で固定していると考えてよいとの見解を示している。また、被告が加入する任意保険会社が依頼した東京厚生年金病院整形外科客員部長石川道雄は、原告は、本件事故によるむちうち損傷により、自律神経症状を来したと考えられるが、自律神経の機能は感情の変化と密接に関係するので、単に外傷という原因だけでなく、精神的因子が少なからず関与し、補償の問題、外国人であることで不利な扱いを受けているのではないかとの不安及び不満、ビザ継続の問題、日本での職業復帰が可能であるか否かの不安、焦りなどの感情の不安定が自律神経症状を増幅し、治療を遷延させたと考えられ、精神的問題を除けば、平成八年一二月末日には症状固定したと考えられるとの見解を示している。

他方、河北総合病院整形外科の湯川佳宣医師は、平成九年一〇月の時点において、原告の症状は、遅々ではあるが回復の方向に向かっていると診断し、平成一〇年一〇月ころにおいても、平成九年一〇月七日ころと比べて症状は軽減しているが、なお存続しており、まだ、症状固定とはいえないとの見解を示している。また、湯川医師は、患者が同意していない場合、医師が症状固定と決めつけるのは妥当でなく、医学的症状がほぼ変わらず、同じ状態が数か月以上継続していても、患者がさらに治療の継続を希望し、現に継続しているときは、症状固定の判断は困難であるとの見解を示している。

2  これらの認定事実によれば、原告が訴える症状は、一般にバレーリュー症候群に見られる症状に類似しているということはでき、発症の経過に照らしても、特に矛盾はなく、少なくとも、本件事故により、自律神経系の神経症状を発症したということはできる。そして、治療経過に照らすと、原告の症状は一進一退であって、発症まもなくの時期からそれほど大きな変化は見られない。もっとも、河北総合病院の湯川医師は、症状は少しずつ軽減してきて回復の途上にあるかのように診断しているが、具体的にどこがどのように回復してきているか明らかでなく、特に、原告は、平成一一年になってから、以前よりも状態が悪いと述べていることを併せて考えると、もはや、回復途上にあるといえるか疑問はある(また、本件事故による負傷内容が、三年以上も経過していながら、まだ悪化しているとはまず考えられない。)。そして、竜王リハビリテーション病院では、平成八年一〇月の時点で、すでに、その時点の状態を前提に社会復帰することを勧め、平成九年二月には、これ以上の改善は望めないとの結論に達していたことを加えて考えると、原告の症状は、遅くとも、竜王リハビリテーション病院を退院した平成九年五月二二日には固定したと判断するのが合理的である。

もっとも、症状固定まで約一年半を要しており、明確な他覚所見のない症状としては、やや長期にわたっていることは否定できず、入院中の原告の主訴の内容及び経過に照らすと、原告の心理的要因がこの治療にまったく影響を与えていないとも思われない。しかし、自立神経系統に問題があることは否定できない上、原告車両等の破損状況からすると、事故の衝撃も決して小さいものとはいえないのであるから、この程度の治療期間であれば、主に心理的要因によって遷延化したとまではいえない。

なお、前記湯川医師は、未だに症状は固定していないとの見解を示しているが、症状が回復途上にあることについて疑問があることは既に述べたとおりであるし、ここで判断する症状固定の有無は、損害賠償額の判断の前提としてのものであって、医療における医師の姿勢とは別の問題であるから、湯川医師の見解が、症状固定の有無を患者の同意の有無にかからせるものである以上、右の判断の妨げにはならない。

三  損害額(争点3)

1  治療費等(請求額二一三万五四三三円) 一八六万一一三八円

原告は、本件事故後、症状固定日である平成九年五月二二日までに、次の治療費等を負担した(証拠は各項目ごとに掲げる。なお、過失相殺をする関係上、既払分も含めてここに掲げる。)。

(一) 河北総合病院の通院及び入院に関する治療費(文書料を含む)及び薬代(一度購入したバファリンを含む)、首カラー代の合計四八万一四一六円(甲五二の1~9、11~30、五三の12、五四の1~5)

(二) 立正佼成会附属佼成病院、丘整形外科病院及び医療法人社団三喜会横浜新緑病院の各治療費合計三九六〇円(甲五二の10、五三の4、9)

佼成病院は平成七年一二月二五日に脳外科で、丘整形外科病院は平成八年一一月二六日に、横浜新緑病院は平成九年三月五日に神経科で、いずれも各一日診察治療を受けたのであるから(甲五二の10、五三の4、9、原告本人)、当時の原告の症状に照らすと、本件事故と相当因果関係を認めることができる。

なお、原告は、平成八年八月一五日に山内耳鼻科病院に通院した治療費も請求し、通院の事実を裏付ける証拠(甲五三の1)があるが、耳鼻科であり、その治療内容は明らかでないから、本件事故と相当因果関係を認めるに足りない。

(三) マッサージ治療及び針治療として、合計六万二四二二円(甲五三の3、5、6~8、10、11、13)

(四) 竜王リハビリテーション病院における治療費合計一二〇万八六九〇円(甲五三の2、乙七)

(五) 装具代として、二万九一〇〇円(乙七)

(六) 河北総合病院(ただし、原告が請求する平成八年一一月二二日、平成九年四月一九日、同年五月九日分、合計二万〇七六〇円)、佼成病院(三七八〇円)、丘整形外科病院(三〇九〇円)及び横浜新緑病院(二五二〇円)、マッサージ治療及び針治療(二万四〇六〇円)、原告の妹の見舞(二回分、四六〇〇円)、本件事故当日に、太極拳の指導のため埼玉県東松山市に向かうこと(一万六七四〇円)に関する通院等交通費として、合計七万五五五〇円(甲七二の9、10、19、24、26、原告本人、弁論の全趣旨)

なお、原告は、その他、保険会社や大使館との相談や会社への交通費等も請求するが、本件全証拠によっても、いずれも本件事故と相当因果関係は認めるに足りない。また、原告訴訟代理人と相談をするための交通費も請求するが、これは、後に掲げる弁護士費用に含まれるというべきである。

2  入院雑費(請求額六七万九九〇〇円) 六四万七四〇〇円

入院雑費としては、一日あたり一三〇〇円の、平成八年一月一一日から平成九年五月二二日までの四九八日分で六四万七四〇〇円を相当と認める。

3  雑費(請求額三二万二六〇三円) 三〇〇〇円

原告は、事故証明書取得費用として合計三〇〇〇円を負担した(甲七三の4~6、原告本人)。

原告は、その他、現場写真、フィルム、印鑑証明書、交通事故書類、カラーテレビ、膝保温用ウールサポーター、足首保温用ウールサポーター、ホカロン、煮漢方薬食器、スポーツパーカー、スポーツ用パンツ、NTTテレホンカード、国際KDDカード、TVカードの費用を請求するが、本件全証拠によっても、いずれも本件事故と相当因果関係を認めるに足りない。

4  休業損害(請求額一五八二万九八三三円) 七三五万六三八九円

証拠(甲一〇~一二、一七、一八、二四、七四~八〇、八二、原告本人)によれば、原告は、中国籍を有し、日本に留学して大学院を卒業した直後の平成七年三月二一日から、食料品等に関して中国と貿易を行っている会社である丸成商事株式会社に、中国との取引補佐及び書類の翻訳・通訳業務を仕事内容として勤務していたこと、雇用の際の賃金条件は、月給制で月額三〇万円(ただし、欠勤した場合は一日あたり一万三〇〇〇円を差し引かれる。)、手当として夏季手当一〇万円、冬季手当二〇万円であったこと、契約期間は一年間であったが、冬季手当より後の手当は、在席成績によるとの条件が契約内容に含まれていたこと、原告は、中国において、伝統拳術により、コンテストで好成績をあげたり、また、武術コンテストの国家二級審判員の資格を有していること、本件事故当時、そのほかに、日本フィットネスシステムズと小金井市太極拳協会において、アルバイトとして太極拳の指導をし、平成七年九月から一一月までの三か月間に、月額平均で一一万二五四〇円の収入を得ていたこと、本件事故当時の在留資格は、人文知識・国際業務であり、一年毎に更新をすることになっていたこと、現在も更新をして同様の在留資格で日本で生活していることが認められる。

この認定事実によれば、原告が、本件事故当時、丸成商事株式会社から、現実にいくらの収入を得ていたのか否かは必ずしも明らかではないものの(欠勤すると減額があるのに、直前三か月の収入すら明らかでない。)、その契約条件と、他のアルバイト収入を考慮すれば、原告は、本件事故当時、少なくとも、原告が主張する五一三万四〇〇〇円の収入(平成七年賃金センサス男子労働者産業計・学歴計の三〇歳から三四歳の平均収入である年間五一三万九四〇〇円を上回らない額)を得ていたと認めることができる。そして、契約条件に、冬季手当の後の手当に関する事項が含まれていることからすると、原告は、本件事故に遭わなければ、一年後も契約を更新して丸成商事株式会社に勤務することができたと推認できる。原告は、本件事故当日である平成七年一二月一七日から、症状固定時である平成九年五月二二日までの五二三日間の大半を入院していたのであるから、この間はすべて一〇〇パーセント休業の必要性を認めることができる。

したがって、これを前提に休業損害を算出すると、七三五万六三八九円(一円未満切り捨て)となる。

5,134,000×523/365=7,356,389

5  物損

(一) 車両損害(請求額八〇万六〇六八円) 八〇万六〇六八円

原告車両は、本件事故により、修理費として八〇万六〇六八円を要する損傷を被った(甲一三)。

原告は、平成八年八月二九日、原告車両の登録を抹消して廃車にしており(甲一九、原告本人)、原告は、廃車したことを前提にして、修理費と同額を車両損害として請求する(車両の時価が修理費と同額であるとの趣旨であるように思われるが、必ずしも明確ではない。)。しかし、原告は、原告車両が物理的に修理不能であるとか、時価が修理費を下回るいわゆる経済的不能であると主張しているわけではなく、それを認めるに足りる証拠もない。

したがって、修理が可能であることを前提にすべきであるから、廃車を前提にして車両損害を算定するのは相当でなく、車両損害としては、修理費として八〇万六〇六八円を認めるのが相当である。

(二) 車両移動費(請求額二万五〇〇〇円) 二万五〇〇〇円

原告は、原告車両の移動費として二万五〇〇〇円を負担した(甲一四、原告本人)。

(三) 車両保管費(請求額一三万〇〇〇〇円) 一万四〇〇〇円

原告は、車両保管費として、一日あたり一〇〇〇円の一三〇日分で一三万円を負担した(甲一四、原告本人)。しかし、修理必要期間として、これほどの日数を要することについて、主張も立証もない。

したがって、通常の修理相当期間として、一四日間の限度で車両保管費を認めるのが相当である。そうすると、一日あたり一〇〇〇円の一四日分で一万四〇〇〇円となる。

(四) 廃車料金(請求額一〇万三〇〇〇円) 認められない

すでに述べたとおり、原告車両は、修理が可能であるというべきであるから、これを廃車にしたことは、本件事故と相当因果関係がない。

したがって、廃車料金は本件事故による損害とはいえない。

(五) 車検代、任意保険支払分、ガソリン代(請求額順に一一万三七五〇円、五万九六三〇円、六五〇〇円) 認められない

原告は、廃車をしたことを前提にして、本件事故前に支払った車検代、任意保険支払分の期間残存分と、事故直前に入れたガソリン代をそれぞれ本件事故による損害として請求する。

しかし、いずれも、本件事故がなければ、支払わなかったとはいえないし、廃車を前提にしている以上、この観点からも本件事故と相当因果関係がない。

(六) ビデオカメラ代等(請求額二〇万〇〇〇〇円) 認められない

原告は、本件事故によって、原告車両に存在したビデオカメラ及びウオークマンが破損したと供述するが、それを裏付ける証拠はない。また、時価算定の基礎となる購入時期及び購入金額について、主張も立証もない。

したがって、ビデオカメラ代等は認められない。

6  慰謝料(請求額四七八万四六六六円) 二二〇万円

事故の態様、原告の負傷内容、入通院の経過などの一切の事情を総合すると、原告の慰謝料(入通院分)としては、二二〇万円を相当と認める。

7  過失相殺及び損害のてん補

1ないし6の損害総額一二九一万二九九五円から、原告の過失割合である一五パーセントに相当する金額を減ずると、原告の過失相殺後の金額は、一〇九七万六〇四五円(一円未満切り捨て)となる。

この金額から、原告が支払を受けた五三五万二五〇二円を控除すると、原告の損害残額は、五六二万三五四三円となる。

8  弁護士費用(請求額一三五万〇〇〇〇円) 六〇万〇〇〇〇円

審理の経過、認容額などの事情に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、六〇万円を相当と認める。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、不法行為に基づく損害金として六二二万三五四三円及びこれに対する平成七年一二月一七日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 山崎秀尚)

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